この事例の依頼主
30代 女性
Bさんは、元々は仕事をしておられましたが、出産を機に仕事を辞め、お子様二人を育てる専業主婦でした。ご家族で幸せに暮らしていましたが、ある日、お子様をベビーカーに乗せて、歩行者信号青表示の横断歩道を渡っていたところ、前方を見ていなかったトラックにはねられてしまいます。お子様をかばうようにしてはねられたため、お子様も傷を負ったものの後遺症が残るようなケガとはなりませんでしたが、Bさんは頭の一部を削られるほどの頭部外傷を追ってしまい、脳を損傷してしまいます。生死を彷徨う状態が続き、なんとか一命をとりとめましたが、脳損傷のために感情のコントロールがきかなくなってしまい、ナースコールをむやみに連打するなどの行動に出てしまうようになりました。旦那様は長期の休暇の休暇を取り、また、田舎で暮らしていたBさんのお父さん・お母さんも病院の近くのマンスリーマンションへ引っ越しをし、3人でBさんの介護を24時間体制で行いました。入院治療や懸命な近親者付添いの甲斐もあり、Bさんは徐々に回復していきます。いつまでも入院するわけにもいかないので、Bさん夫妻の実家の近くの病院に入院することにしました。これは、退院後に、Bさんのお子さんの面倒をBさんの旦那さんのお父さんお母さんが手伝い、Bさんの介護をBさんのお父さんお母さんが行うという体制で乗り切るためです。ただ、Bさんのお父さんお母さんも高齢ですから、いつまでもBさんの面倒がみれるわけではありません。そこで、Bさんのお父さんお母さんやBさんの旦那さんが、将来を不安に思い、弁護士のもとへ法律相談に行くことになりました。★法律相談Bさんのご家族が来所され、法律相談を実施しました。今後の流れがどのようにして進むのか、また、賠償額はどうなる見込みかについて説明をしました。1 今後の流れについて(1)後遺障害等級の申請そろそろ症状固定となり、退院予定であることを伺いましたので、まず後遺障害等級の申請を行います。後遺障害等級の申請には、主治医の先生に後遺障害診断書を書いてもらわなければなりませんが、高次脳機能障害の場合は、この他にも複数の書面を書いてもらなければなりません。基本はこちらで準備するので良いのですが、『日常生活状況報告』のみは、ご家族にご記入いただく必要があります。ヒアリングを行い、事故前のBさんの状況や現在のBさんの状況に照らすとどのように記載するべきかについてお話させていただきました。(2)損害保険料率算出機構による調査通常3か月程度で結果が出ますが、高次脳機能障害の場合は、高次脳機能障害調査のための特定部会に回されますので、審査期間が長くなることがあります。(3)示談交渉後遺障害等級の結果が出た後は、その結果に基づいて示談交渉を行います。Bさんのケースだと、賠償額が1億円を超えることが予想されたため、1か月以上の交渉期間を要する可能性が高い旨をお伝えしました。(4)民事裁判賠償額が1億円を超えるようなケースですと、ほとんどの場合、折り合いがつかずに裁判となります。2 Bさんの件で請求することが考えられる損害について下記の損害内容についてそれぞれ説明を行いました。(1)治療費・症状固定後の治療費・将来治療費(2)入通院付添費・将来介護費用(3)入院雑費・将来雑費(4)装具・器具等購入費(5)家屋改造費・自動車購入費(6)休業損害(7)逸失利益(8)慰謝料
1 後遺障害等級申請医師の協力の元、後遺障害等級の申請に必要な書類を揃え、また、Bさんのお母さんに「日常生活状況報告」を記してもらい、後遺障害等級の申請を行なった所、見立てどおり、後遺障害等級別表一第2級1号が認定されました。2 示談交渉3億円程度の損害賠償請求を行いましたが、保険会社から示されたのは1億円強の示談案。裁判をすることにしました。3 民事裁判(福岡地方裁判所)(1)Bさんが懸命にリハビリをしていたことが逆手にとられる裁判は、病院や介護施設の記録をすべて取り寄せて行うことになるのですが、そこには交通事故の後、生死を彷徨うような状況であったBさんが、徐々に回復をしていき、その後も懸命なリハビリのもと、家で父母と共に生活できる程度まで回復していった経緯が記されています。この点を逆手に取られ、保険会社側の弁護士からは、自賠責保険は後遺障害等級2級の認定をしているが、実際の高次脳機能障害等級は5級程度であるとの反論がなされることになり、裁判官もある程度、保険会社側の弁護士の見解を取り入れ、1億円強の和解案を提示してきました。(2)介護状況の調査Bさんの家を訪れ、写真や動画にて、Bさんの介護の大変さを撮影することにしました。また、介護ベッド、車いす、杖、リハビリ用シューズなどの装具・器具が具体的にどのようなもので、どのような使用方法をしているのかについても調査をしました。加えて、家屋改造の具体的内容や自動車購入の必要性についても調査をしました。(3)主治医の意見書作成裁判所和解案が、こちら側の請求額の半分にも満たなかったため、裁判所の考え方が医学的に誤っていることを伝えるべく、各争点について主治医の先生の見解を伺うことにしました。①近親者の付添いの必要性について和解案では、完全看護体制の病院であったため、近親者による入院付添いの必要性が否定されていましたが、近親者の付添いは必須であったとの回答を得ることができました。また、付添人数は1名では困難であることの説明を受けることもできました。② 後遺障害等級5級が妥当か2級が妥当かについてBさんが外出する際の車いすの必要性や、家での杖の必要性など歩行についての医学的意見を伺い、また、判断力・持続力については、右半球障害による注意抑制障害があり、自身をコントロールできない状態になっているとの意見を伺いました。その他、画像所見、脳波所見、神経心理学的検査、前頭葉機能、情報処理機能、運動機能、身の回りの動作機能、てんかん発作、認知・情緒・行動障害、社会生活・日常生活に与える影響、将来仕事や家事に復帰する可能性などについて意見を伺いました。③ 今後のリハビリや治療について将来治療費の必要性・相当性についての主治医としての見解を伺いました。④ 将来の介護についてずっと父母が介護するわけにはいかないため、将来職業付添人への介護依頼が必須になるとの意見を伺いました。⑤ 装具・器具購入費について手すり、入浴用品、杖、下肢装具、車いす、介護用ベッドなどの装具・器具の必要性について医学的観点から説明を頂きました。(4)裁判所和解案が誤りであることの指摘介護状況の調査内容や主治医意見書を元に、Bさんの後遺障害等級を5級相当とする裁判所和解案は誤りであり、将来介護費などを否定する和解案の計算内容も誤りであると指摘しました。(5)再和解案以上の介護状況報告や主治医の意見書の立証が奏功し、裁判所和解案の内容が改められ、2億5000万で和解成立となりました。
【解決事例のポイント】① 医師の意見書で損害を裏付け約2億5000万円の和解② 現地調査により介護状況や家屋改造の必要性を証明③ ご家族の苦労などを陳述書で立証し近親者慰謝料5名分、計1250万円獲得④ 一度後遺障害等級5級程度とされた裁判所の判断を覆し、後遺障害等級2級での和解解決【コメント】このケースはご家族や病院の協力も得られた事案でしたので、申請用の書類もスムーズに整い、見立て通りに後遺障害等級2級を獲得することができました。ただし、裁判所が予想に反し、自賠責保険の等級判断である2級ではなく、被告の弁護士主張の5級の和解案を提示してきたので驚きました。交通事故訴訟の場合、裁判所というのは、十分な反証のない限りは自賠責保険認定の後遺障害等級を前提として話を勧めることになっていて、被告からは特段、重要な証拠がなされていなかったケースでしたので、裁判所和解案は証拠をよく読んでいない不当なものだと思っています。ただし、担当裁判官はその人で、彼には判決を出す権限がありますから、なんとか裁判官の納得する証拠を作らなくてはなりません。そこで、ご自宅にお邪魔して介護状況や介護用品の撮影を行わせていただき、また、主治医の先生と協力して詳細な医学的意見書を作成しました。無事、約2億5000万円というBさんの実情の大変さに見合う賠償額を獲得することができましたが、これらの動きを取らなければ、賠償額は半分程度になっていました。足を使って、裁判官の納得する証拠をそろえることが重要であると感じさせる事件でした。